2009年12月16日水曜日

対気速度は翼の命

 みんなゆっくり飛ばしすぎです。

 翼にとって、命の流れ、血液、食べ物、エネルギーとは何でしょうか。どんなに高性能な翼でも、地面に置いておけば何も起きません。精々突風に飛ばされてパイロットが慌てふためく程度でしょう。空に打ち上げられ、いきいきと駆け回るために、彼には何が必要でしょうか。

 ご存じの通り、翼に命を吹き込むのは大気の流れです。どんなに優れた翼型を採用した主翼でも、対気速度を失ってしまえば板きれも同然です。

 右上の図の白い曲線は、SuperGee2翼のクルーズモード時の特性です。右側が滑空比、左側が沈下速度です。横軸は共に対気速度を表しています。クリックをすると大きな図になります。
 各図の左側がぷつんと途切れていますが、これは計算をやめたわけではなく、ここで失速が起きて居ることを示しています。ですから、このまま曲線が外挿されて続いているわけではなく、この先は奈落の底…ピッチングを起こして罵声を浴びる死の淵なのです。

「このへたくそ!」
「あかん!下手過ぎや!」

 速度が落ちれば操縦がある程度楽になるように思えますし、サーマルの中でも良く浮くように思え、その様に記述をしているサイトもあります。しかしこれは誤りです。実機グライダーの初心者パイロットが教官に頭をこづかれながら覚える、最大滑空速度・最小沈下速度…これこそが大事な数字であって、それ以下に速度を落とすことは着陸するとき…すなわち「下に行きたい」時以外にはないのです。

 カーブによると、性能が最大になる一点の速度より速いほうと遅い方の比較では、速くなる分には徐々に性能が劣化しますが、遅くなる方ではより急激に性能が落ちることがお解りになると思います。すなわち、あなたは対気速度を殺して危険な崖っぷちに近寄るべきではなく、どうせ悪くなるのなら速度の速い悪い方のほうが格段にマシなものだ、ということです。速いほうの窪地に居て、崖から落っこちるライバルたちを眺めていればよろしい。競技にも、リスクマネジメントは必須なのです。

(マゼンタの曲線は、日本国産の市販機を購入し、翼型をトレースして計算機に入力し、同条件での解析をした結果です。最良の場合で、SG2と比べ滑空比が約1.0向上しています。これを、支払うコストの割りには少ないと見るか、多いと見るのかはそれぞれのパイロットの価値観に任せましょう。)

 真っ直ぐに速く飛ばす練習をしてみてください。機体の調整をキチンと行い、クルーズ状態ではエレベータの補正無しで真っ直ぐ、ピッチングにもダイブにも入らないトリムを出すのは大前提です。
 真っ直ぐ飛ばすコツは、ブームと地面を平行にすることです。機体が下方向にお辞儀をしてしまうより、偉そうに上ずるほうが危険です。兆候を素早く察知して、的確にダウン舵を操舵してください。

 真っ直ぐ飛ばすことができるようになったら、今度はより楽しく難しい、センタリング中に速く飛ばすことを覚えます。センタリング中は、完璧なドリフトをしていない限り、円周の中で対気速度の変化が起きやすいので大変です。ただ、コツはそう難しいものではなく、真っ直ぐ飛ばすときと同じように、ブームを地面と平行にすることです。

 慣れてくると、熱上昇風中で上昇する速さが、今までと違ってきたことに気づくでしょう。もしくは、今まででは乗り切れなかった渋い熱上昇風に乗れている自分に気がつくと思います。

 誰にでもできることです。できないのではなく、やろうとしていないだけです。グッドラック。

2009年6月24日水曜日

翼型についての誤解

 飛行場は社交場、誰が言ったか知りませんが、うまいことを言います。身体を動かして打ち上げたり、スティックを操作している時間よりも、ただ無駄話をしている時間が長いのは、どの場所でも変わらないものなのでしょうか。
 失礼、無駄話などではなく、テクニカルかつ有益な議論が行われることもあります。その中で小耳に挟んだこと-ねじり下げ-について書いてみます。

 いきなり結論めいたことを書いてしまいますが、主翼前縁頂点と後縁頂点を結んだ直線が、主翼の各部分の翼型でそれぞれ変化すること、翼端に向かうに従い、その角度がマイナス方向に向いていることを称してねじり下げが付いている、という表現は、間違いを含んでいることに注意してください。
 取り付け角が水平尾翼に対してゼロ-ゼロであったり、ごくわずか主翼にマイナスの迎角がついているのを過度に忌避するのも同様です。

 翼型は、迎え角0であっても揚力を発生するものもあれば、そうでないものもあります。翼端に近づくに従い、揚力係数が小さくなってゆくもの、言い換えると主翼付け根の翼型に比べて、同一迎角時の揚力係数が小さいものは、たとえ迎角が付け根と翼端で全く同じであってもねじり下げ
(効果)がついているものと言えます。
 上の図は、様々な翼型の様々なレイノルズ数での、迎角と揚力係数を表現しています。曲線が
きわめて多数あるためにバンド状に見えますが、注目すべきは迎角0度の時に既に揚力を発生しているという結果です。

 HLG用の翼型の多くでは、揚力がほぼゼロになる迎角は-3度付近です。これ以上の迎角がついた場合、揚力が発生します。

2009年3月18日水曜日

シーズン1の終了

 前稿までで本ブログのシーズン1を終了します。

 ずいぶんいろいろなことを書きました。私から発信できることはなるべく丁寧に、わかりやすく、演繹的また論理的に記述してきたつもりです。だらだらと描いてあるようにも見えますが、自分としてはできるだけ細部にまで注意を払い、文章を置いてきました。この作業はかなりの下準備とエネルギーを必要とし、それを継続することには一定の心理的圧力を要求されました。

 ちょっと前まで…前世紀まで…は、ノウハウは個人の資産で、それを公開することは損をすることを意味していました。前世紀までは。21世紀は別の価値が支配するのだと思います。公開し、共有し、力を合わせてさらに高みを目指すやり方こそが、もっとも求められまた理にかなったものになってきつつあります。石油も、原子力も、経験も、時間も、能力もすべて資源なのです。すべてのリソースは、大切に、わけあって使用するのが当然で、内に秘め独占をすることは時代遅れとなり世界のうねりから取り残される状況になりつつあると確信しています。

 日本のハンドランチグライダー界に、積極的な情報の公開と共有を行おうという方が少ないのは非常に残念なことです。殊にベテランの方、成績上位者の方からの情報は不足しているように思えます。経験に裏打ちされた情報は、これからこのきわめて楽しい趣味を始めようという方、また、非科学的な”見て盗んで覚えろ”という閉鎖的な情報伝達にあきあきした方には何者にも代え難い貴重な情報となるはずです。

 私のような初心者の出る幕では本来ないのです。

 きわめて優秀なAG翼型を惜しげもなく公開しているドレラ博士、またRCグライダー界に於ける希有の名著 Old Buzzard's soaring bookを日本にもたらした浅見氏に続く方がこの美しい国、日本より再度現れることを強く願いつつ、シーズン1の筆を置きます。

(追補:誰かが発信してくれた情報を、受け取るのが当然、自分は黙っている、もっと悪いことには評論しかせずにいるような人間には、残念ながら進歩はないでしょう。共有とは、全員が発信者・創造者であり、受信者・享受者であるということです)

2009年3月16日月曜日

打ち上げへの考察

 僕の今日のお昼ご飯は、昨日の夕ご飯のリアレンジ品。
おなじおかずでも、ほんのすこしトッピングを替え、趣向を凝らせばちょっと嬉しいランチにありつけます。お昼休みごとに外に食べに行ったのでは、ゆっくりと瞑想にふけりながら時にグライダーの飛翔に思いを巡らす、居眠りという貴重な時間が短くなりますし、お昼代金もかかります。第一外食のように塩分が多いと身体にも良くないですしね。ランチ屋ですから、ランチには拘ります。

 打ち上げ高度をもっと上げたい場合、何をすればいいでしょうか。昨日と同じ投げ方では、入力がおなじなのですから違った出力は出てきません。何かを変えなくてはいけません。
 新しいことを行うと言うことは、今まであった古いものを壊す必要があると言うことです。かのインドのヒンドゥの教えでは、破壊の神シバは、創造の神ブラフマー、維持の神ビシュヌと並び、崇められます。不要と思われるものを捨て、新しいものをその上に打ち立てないことには、進歩は得られません。変えるという事の第一歩は、今までのやり方を捨てる、ということです。
 多くの人が「なんだかずっこけそうになる」「しっくり来ない」という理由で、打ち上げのフォームを改造することを拒むのは、尤もだと頷けはしますが、他人の同意が得られたところで打ち上げ高度は1mも上がりはしません。ゴルフや野球を引き合いに出し、フォームを改造しようとして深刻なスランプに陥る例を言い訳する方も居られますが、それは神経質に過ぎます。過てば戻るだけ、なにも損はないのです。

 ではなにをしたら良いのか、どこから手を付けるべきなのか。最後から最初への改良と、その逆、両方の手法が考えられます。リリースに近いタイミングに行う事象から改造する・・・たとえば最後に腕を引きつける・・・これを最後からさかのぼる改良、お昼ご飯のトッピングを施す作業にたとえるならば、一歩目の踏み出し方を改造するのは残り物でなく、新たにご飯を炊き、おかずを作り上げる作業とでも言えましょうか。物事は土台から積み上げるもので、改造する場合も土台から打ち壊し、改造を加える方がドラスティックな効果を期待できますから、一歩目から変えてみましょう。
 この場合、投げ方は人により千差万別ですが、典型的な例として以下のパターンを上げてみましょう。
  • ある程度の助走の後に最終フォームに入る投げ方。
  • 3~4歩のある決まった歩数を以て投げるやり方。
 どちらでもしっくり来る方で良いと思いますが、人間の走る速さが大したことはないこと、また回転動作の中心軸の片方は地面に接地し、容易に動かせないという事実を勘案すれば、走ることを前置するやり方は、打ち上げ速度にそれほど寄与するものではなく、むしろ最終フォームを形作るために必要な動作と言えましょう。ですから、重要なのは走り始めのステップではなくて、リリースの瞬間から逆に数えて数歩だと言えるでしょう。そうなると上記の二つのスタイルともおなじに扱うことができましょう。

 右の図は、ある競技者における打ち上げ動作の最後の数ステップを示しています。解りやすいように、右足は青色で示しています。回転する動作が②と③の2箇所にあることがわかります。ここで回転を行い、腕の先に位置するグライダーを加速しています。このポーズに入る際に、効果的に回転できることが極めて大事なことが解ります。加えれば、2歩目のキック動作で3歩目の回転を大きく加速できますので、2歩目の回転動作を効果的に力強く行い、3歩目の射出動作にスムースにつなげることこそが動作の中心、心臓部になると言えましょう。
 以前の稿で述べた、グライダーの初速は与える力積=力×時間が増えるほど速くなるという事から、回転するストロークを多く・長くとるほうが加速に有利なことが解っています。このためには、最終の射出ポーズの直前までに身体にひねりを残しておくことが有効です。言い方を変えると、足を先行して運び、腰から胸までは残しておけば、その蓄えられたひねりを戻す動作が加速に有効に作用します。足の運びと残っている身体の差は大きければ大きいほどひねりの力も大きい。繰り返しますが足の運びを大げさに取れば・・・この様な書き方しかできないのは隔靴掻痒、もどかしいのですが・・・足だけが先行し、強力なバネとなるべきひねりを残せる足の位置が見いだせるはずです。
 身体のねじりバネを長い距離をもち解放しつつ、②のキックを加え、最終射出にスムースに接続します。この様な投げ方ができれば、加速区間が長いので、以下のメリットが生じます。
  1. 機体にかかる加速度が小さく、また変動が小さいため、機体に負担がかからない。これは補強による無駄な重量の増加が抑制できることを意味する。
  2. 身体にかかる負担が小さい。
  3. 加速がなめらかなため、ペグから指が外れにくい。強風時でも安定した射出ができる。
 頭で理解したら、身体を動かす番です。奥様や子供達にからかわれようが何しようが、身体を動かし始めて下さい。機体の性能には限界がありますが、人間の能力向上は限りがありません。

 一つだけ補足を加えておきます。②・③の位置では、なめらかな回転が必要ですから、必要以上にグリップの良い靴は回転の妨げになることがあります。また、足をひねる力も大きくなりますから踵や膝にトラブルを招きやすいことには十二分に注意してください。履き慣れたスニーカーのような割とありふれた靴が良い結果を生むように思います。

2009年3月9日月曜日

サーマルの生い立ち

 穏やかなインディアン・サマー、連れてきた子供達と外で弁当を広げ、お昼にするとき、何ともいえない幸福感につつまれます。さわやかな風が時折、お弁当の包装をくすぐり、時に袋などを連れて行ってしまいます。「重しを置いて、ゴミを散らさないようにね」

 一緒に付いてきたお父さんは言います「時々吹くこの風は、サーマルだよ」。お母さんは全く無視ですが、子供達は「サーマルって、なに?」。

「サーマルはね、熱上昇風っていうんだけど」

 ・・・地面や大気には、暖かい部分と冷たい部分ができます。暖かい部分は太陽光に暖められたり、冷たい部分はしめったところだったり、雪が積もっていたり。とにかく、地球が回っている限り熱上昇風はどこかにあります。雨が降っていようとも、夜中であろうとも、それはできます。天気図の上に低気圧と高気圧が尽きないように・・・熱上昇風も尽きることがありません。それは「必ずどこかにある」のです。
 温度差があると、暖められた軽い空気は、上昇しようとします。もしくは、周囲の重い空気は、軽い空気を押しのけて下に潜り込もうとします。

 空気は軽いものの代表のように考えられます。その重さは・・・1立方メートルにつき、約1.2キログラムです。1.2キログラム!あなたのグライダーなど押しつぶしてしまう重さです。重い空気は、暖まっても簡単には動こうとはしないでしょう。空気の粘性も無視できません。何と、水の1/50でしかないのです。動粘度に至っては、空気の方が10倍以上も大きい。あなたの回りの大気は、思ったよりもベタベタネバネバしているのです。

 こういった大気は、容易には動こうとしません。なにかきっかけがないと、そこでよどんでいます。以前にも書きましたが、立木や地面の変化(川や水たまり)、自動車や建屋、崖、地面の盛り上がりや裂け目などの障害物に当たると、やっと空気は重い腰を上げ上昇をはじめます。
 さっき書いたように空気はネバネバしているため、回りのやはり暖まった空気を引き連れて移動しようとします。半球形のドームのようなものが、成長を始めます。同時に、コリオリの力により、反時計方向に渦を巻き始めます。それでもまだ、暖かな空気はそこで頑張っていますが、やがて耐えきれなくなり剥がれ、さらに周囲の空気を引き込みながら上昇を始めます。
 重い空気が渦を巻きますので、仮想的な力である遠心力がすかさず働きます。結果、何が起きるかというと、中心部が吹き上がり、周囲部に向かって吹き下ろしながら、ちょうどドーナツのような形状のものが周囲吹き下ろし、中央部吹き上げ、で上昇してゆくと考えればいいでしょう。
 ただし、実験室ででも無い限り、綺麗な形状の熱上昇風が立ち上がることはなく、いびつな形状で上がっていくことが多いものだということは忘れないように。
 一度熱上昇風が行ってしまうと、その地域に再度熱上昇風が生じるまでには、充電時間が必要になります。また、熱上昇風は風の流れのなかで移動していることも考慮が要ります。

上記で解ることは、以下です。
  • 熱上昇風は、どこかにへばりついている。
  • きっかけがないと、剥がれて上がり始めない。
  • 反時計方向にゆっくりと渦を巻いている。
  • 周囲部分は吹き下ろし、中央は吹き上げ。
  • おなじ場所に周期的に生じる可能性がある。
  • 暖められる場所が変われば、発生する場所も変わる。
そうすると、すぐに以下のように考えて飛べばよいことが解るはずです。
  1. さっきサーマルが発生していた場所には、時間を置いてまたサーマルが発生する可能性が高い。
  2. 地面に「きっかけ」のある場所の風下を飛ばす。
  3. 右旋回の方が多少、効率がよい。
  4. 熱上昇風の境界では、下降風に蹴られるので、蹴られた逆方向に熱上昇風の芯がある。
  5. 朝/午前/昼/午後/夕方で発生する場所が微妙に変わる。
  6. 本流風の中での変形を意識して、センタリング位置を流す。
  7. 熱上昇風の回りは、下降風。脱出時は熱上昇風の球を、垂直に突っ切るのが最短距離。
  8. 小さなするどいリフトがあったときは、熱上昇風が剥がれる直前の可能性が大きい。
  9. 自分の回りの風向きが変化したときには、その風下に熱上昇風がある確率が大きい。
 常に頭の中で、自分の周囲にどの様な風が吹いているのかを想像し、周囲の大気の流れの様子の立体的な地図を組み立てて下さい。頭の中にその立体地図を思い浮かべながら飛ばすことができるようになると、あなたには熱上昇風が明確に「見える」ようになるでしょう。

2009年2月22日日曜日

つがえた矢

 本日の午前中は日本中いい天気でしたが、午後になるとやはり日本中強風だったようで、風アメダスの足が長い絵が印象的でした。春は荒れます。僕がまだ若い頃、ハンググライダーに搭乗しある山を越えようとしていると、急に毎秒10メートルのリフトに入りました。毎秒10メートル、これは異常な数値です。特上の上昇風でも、5m毎秒がいいところです。万歳とばかりに上昇を始めましたが、どうも熱上昇風とは様子が違います。風に凶悪な表情がある。待てよ、と身構えた瞬間、今度は10メートル毎秒の下降風に突入しました。石のように落ちてゆきます。舵は全く効きません。…恐怖の数分間でした。春は各所に微小な前線ができます。時に大きな旅客機でさえ、この微小前線に捕まるとたたき落とされることがあります。

 どんなに荒れた風の中でもHLG競技は行われます。明確で扱いやすい熱上昇風がなく、洗濯機の中のような荒れた春の突風では、打ち上げ高度もそれほどのアドバンテージにはなりません。というのは、このようなコンディションの場合、上空高いほど荒れており、様々な角度から風が襲ってくるので迎え角の維持も困難で、簡単に高度をロスしやすいからです。低空の方が風速は小さく、姿勢の維持も容易です。となれば、ウエーブを探し、低空で粘っている方が勝ってしまうケースも考えられます。
 ただ、日本では公式競技はあまり春には行われないので、レアケースであるとは言えましょう。やっぱり、打ち上げ高度は第一義に重要なのです。

 高い打ち上げに関しては、既に何度か述べていますが、本稿では一番注意すべき所はどこかを考えてみます。弓道を思い起こしてください。矢を弓につがえ、射ます。戦闘では矢をつがえる動作も素早い必要があるでしょうが、狙いを定めて遠方の標的を射るのであれば、つがえる動作はゆっくりです。あまり焦っては動作が荒くなります。荒くなる、ということを判りやすく言うと、一つ一つの動作に集中できていないために最適な動きができていない、とも表現できます。矢を射るのは一瞬です。矢を射る直前までの動作は、速度の速い矢を放つのに必要な動作ではありますが、素早く行う必要はありません。無駄に速ければ、動作の要素が粗末になり、結果、矢の射出速度も遅くなることでしょう。
 HLGの打ち上げにも同じ事が言えましょう。大事なのは最後の動作、つまりは最終時点での両足の位置、腰のひねり、腕ののばし具合なのですが、その「かたち」に入るまでの動作はゆっくりで良い、ということです。最良のかたちを作り上げるためにその前の動作があります。ゆっくりと、丁寧に、自分を観察しながら行ってみましょう。最適なかたちが出来上げれば、射出の最終動作はパワフルで、素早いものに必然的になります。
 きっと、ゆっくりと投げ上げているのに、今までよりも高い高度に到達することに驚かれると思います。

2009年2月21日土曜日

速度に注意しながら飛ばす

 日本は狭いようで広い土地です。いえ、面積的な面では過密な地域なのですが、そこに住む人たちの特性は地域ごとにバラエティに富むと聞いています。ある地方では他人のフライトに口を出すようなことは無いといいますし、またある地方では和気藹々とやじが飛び、またある地方では「何やってるんだ!ピッチングしてるぞ!!」と怒号が飛び交うようなこともあると聞きました。これも愛の鞭なのでしょうけれど、必死で操縦している競技者にとってみれば大きなお世話のような気もします。言われるまでもなく本人は体をねじったり送信機をひっくり返したり、必死なのですから。

 冗談はさておき、ピッチングというものは操縦の未熟さのシンボルのようにいわれます。これは、-僕にとっては腹立たしいことには-全く正しい事実なのです。ピッチングはあなたの翼の酸素欠乏を意味しています。翼にとって気流こそが大事なものであり、ピッチングに入れて機速を失えば、次は頭を垂れて一気に高度を失う羽目になります。せっかく稼いだ大事な大事な高度を、無為に失うのです。これほどつまらないことはありません。
 さて、ではどのように飛ばすべきでしょうか。一般的には頭を押さえて、などといいますが、定量的には、6.5度までの迎角の範囲内で飛ばせ、ということです。
 右上の図は、横軸に迎え角、縦軸に滑空比、つまりあなたの翼の活きの良さ、をとったものです。迎え角6.5度を超えると、グラフが途切れています。これは、演算の途中に解の収束する条件を満たせず、答えが出なかったということを意味します。つまりは失速が起きていると考えればよろしい。一般的にHLG機に用いられる翼型では、失速は羽の中央部より起き、だんだんと翼端に向かって伝わりますので、ころんと翼端失速を起こすようにはなりにくいのですが、イメージ的には「活きの良さ」は6.5度を超えると一気に失われ、グラフにはありませんが滝のように一直線に滑空比が悪化すると考えてよいでしょう。
 右の下側の図は、右上のものと全く同じ条件を、横軸を速度としてプロットしたものです。時速17キロのあたりでグラフが途絶えているのがわかります。時速17キロを割ると、あなたの翼は窒息し死んでしまうのです。生き返らせるためには、高度という代償を支払う必要があります。それは時に2~3mにもなり、競技者のため息のおまけもついたりします。
 興味深いことには、最大の翼の滑空比が得られるのは時速20キロ近辺だということです。20キロから上はなだらかに悪化し、20キロから下側には急激に悪化します。となれば飛ばし方は明確で、速度を殺さないように飛ばせ、これだけです。
 迎角を精密に制御するのは難しいことです。熟練ともなればある程度は見えてくるものらしいですが、駆け出しの僕にはさっぱりです。ならば、速度を殺さないように操舵をしろ、ということです。そこだけ気をつけて飛ばすだけで、あなたの翼は生き生きと空を駆け回ることでしょう。
 もう一つ、アドバイスを加えるとすれば、ピッチングを起こしそうになったら通常はダウン舵を打って速度を維持しますが、上昇風センタリング中に有効な手としてエルロンを操舵し、深い角度に横転するやりかたもあります。

2009年2月15日日曜日

より高い打ち上げをするために

 この記事を書こうとして私は何度もためらいました。打ち上げのセオリーはないに等しく、各人各様、皆違う身体をさばきをし、打ち上げ角度も実に様々です。また短時間で行われる現象のため、解析もしづらいものであり、そこに統一された理論を持ち込むのはきわめて困難な作業に見えます。
 ただ、これを敢えて行わないことには、このブログの価値も半減してしまうと考えました。そこで、本稿では要素のみを並べ、そこに解説を付属するのみとします。

*最終時の腕の引き込み
 打ち上げ時の最終段階に、ペグを指に引っかけ、さらに腕を引き込む動作を行う動作があります。これは、身体能力がそれほど強力でないとか、年配であるとかの方には有効な手段です。加速時の機体の重心位置は、ポッド上・翼の中心位置前後にあります。そこに150g前後の空気抵抗が後方に引きますし、さらに加速時にも反作用が生じますので、指をペグが離れる寸前の機体は、競技者のかなり後方に位置します。このまま素直にリリースするのではなく、能動的に①左側に倒れ込む②腕を引きつける、のような動作を行い、遅れてきた機体に対してY軸方向に引き込んでやります。(X軸:前後方向、Y軸:スパン方向、Z軸:上下方向)
 ベクトルというものはもうお忘れかと思いますが、上記のような動作を行うと、X軸方向にも力が生じます。これが、最後の加速に使用できます。
 デメリットもあります。この投げ方は、機体にかかる負担が大きいのです。力のかかる向きが打ち上げ時最終時に急変します。機体には補強が必要で、その補強が機体を重くし、結果として打ち上げ高度に悪影響を及ぼす可能性があります。この投げ方は、最後のスパイス的に使用するのがよいと感じます。

*加速区間では腕を伸ばす
 同じ回転数のプロペラの、プロペラ先端の接線速度・・・打ち出し速度・・・は、同じ回転数のプロペラであれば、当然ながらプロペラ半径が大きい方が速くなります。同じ理屈で、打ち上げ時の加速区間では意識して腕を長く伸ばすべきです。
 誤解を恐れず言い切ると、回転する力は下半身から生じます。70キロ前後の人間を動かす力が生じていますので、たかだか200g前後のHLGを振り回すのは訳ありません。下半身から力強く発生しているトルクを速度に変換するためには、長いアームが必要です。腕を伸ばして打ち上げてください。

*左腕は引き込む
 回転開始時には送信機を抱えた左腕はのばしておき、打ち上げの最終段階にかかるにつれ引き込んでゆきます。アイススケートのピルエットと思い起こすと、腕を引きつけると回転速度が速くなるはずです。同じ効果を狙い、重い左腕と送信機にあるエネルギーを回転速度に転換します。効果はちょっぴりですが、やらないよりましです。

*下半身のとりまわし
 なぜ人間が回転することができるのか、考えてみましょう。足を運んでいるからです。当たり前ですね。足を固定したままで投げてみましょう。ミニ機ではよくやるのかもしれませんが、フルサイズ機でいくら腕に力を込めても、ろくな高さまで上がりません。腕力は強いのに!なぜでしょう。
 200gのHLGであっても、加速には時間がかかるのです!・・・いえ、あなたの重い重い胴体に繋がった、これまた数キログラムもある腕を加速するためには、長い長い加速区間が必要になってしまうのです。
 長い加速区間を取るためには、回転しないと無理なんです。回転するために、足を運びます。・・・で、あるのなら、加速区間が長く取れるという目的のために足の運びを見直してみます。
 足の立つ位置を種々変えながらゆっくりと回転してみます。デッサンなどをされる方なら、ダミー人形を動かして客観的に見るのも良いかもしれません。
 種々試行するうち、加速区間が長く取れる位置があるはずです。表現を変えます・・・最も腕を長い距離振り回せる場所があるはずです。そこです!自分にしみこんだ投げ方を改造するのは勇気の要ることですが、挑戦して下さい。挑戦する価値があることは間違いありません。自分の可能性を開拓するのはとてもワクワクする行為です。

2009年2月13日金曜日

無駄な筋肉を使わない

 競技から離れ、皆が楽しんでいる様をリラックスして見るとき、操縦者の姿勢はあまりに個性に富み、彫像のデッサンにちょうど良いのではないかと妄想してしまうほどです。
 どんなスポーツ・武術でも、身体を硬くしなさい、と教えるものはありません。
 鏡の前でぐっと腕に力を入れてみてください。筋肉は収縮をしている筈ですが、腕は動いていません。なぜでしょうか。これは、拮抗筋というもののはたらきによります。一つの筋肉の動作に対し、別の筋肉が収縮し、全体として仕事をしない筋肉のことを言います。
 では次の実験です。腕全体に力を入れたままで、腕を動かしてみてください。・・・動きはぎこちなく、さらにガタガタと震え、繊細な動きはできないものと思います。加えて、動く速度自体も遅い。更に加えれば、その動作のあとはとても疲れてしまいます。
 さらに悪いことには拮抗筋を使う動作は、脳の処理能力を多く取ってしまうことです。操縦中は、動かす必要のない筋肉に貴重な脳の処理能力を割くべきではありません。

 操縦中に身体を硬くしたり、彫像のようなポーズを取ってしまう気持ちはわかります。気持ちはグライダーに搭乗し、体重移動しながら風と格闘しているのですから。でも、拮抗筋のデメリットに気がつけば、彫像になるのをやめ、地上の操縦者としてベストを尽くす方が賢明です。深呼吸でもして意識して身体から力を抜き、彫像をやめ、送信機を傾けたり上にしたり下にしたりするのをやめてください。送信機に傾き検知機能は付いておりませんし。
 HLGはスポーツなのです。かろやかなステップで機体に正対して立って下さい。機体が流されているのに、まるで根でも生えているように足を固定し、身体や首をねじって機体を見ている彫像を目撃することがありますが、視野の傾斜や頭部の傾きは、バーティゴ(空間把握のミス)を産みやすいのです。
 右のツバメは、身体はターンの最中ですが、頭部は地面と並行です。常に機体をまっすぐ見て、身体の力を抜き、指の先までリラックスすれば、あなたの能力は簡単に1.5倍にも2倍にもなるでしょう。

2009年2月12日木曜日

重量の影響

 念入りに仕上げられた軽い機体を手にすると、投げてもいない内から心が浮き浮きします。軽い機体はそよ風のような弱い上昇風にも敏感に反応し、皆の羨望を集めながら自分を勝利に導いてくれるように見えます。多少頑丈さが損なわれるのが何だ。
 さて、軽い機体も修理を繰り返し、だんだんと重くなってきてしまいます。もうこの機体もダメかな、価値のある内に誰かに売却しようかな、と考える時、それが当初に比べてどの程度劣化したか、気になりませんか?SuperGee2の設計の場合、220gの新品時と5%増しの231g時では以下のような差が生じます。
  • 最小沈下率は、新品の方が約1.5%、良い
  • 失速開始速度は、0.4km毎時、新品の方が良い(遅い)
  • 打ち上げ高度は恐らく、2%程度新品の方が良い
  • 最良時の滑空比L/Dは新品の方が約1.3%、「劣る」
 それほど悲観すべき結果には見えません。重くなり上がらなくなっても、滑空比が伸びたことである程度の相殺が生じ、サーチできる空域の広さはそれほど劣化しないことが読み取れます。上昇風中での上がり方は僅かに鈍化しますが、バタバタ無駄な舵を打つ悪い癖を少しでも抑え、ねじ曲がった身体をほぐして良い舵が打てるならば消し飛んでしまうような数字です。

 上記の数字は逆の読み方もできます。上昇風があまりなく、素早い移動が困難な風の強いコンディションであるならば、バラストを積んで機体を重くした方が、上空を我が物顔に飛び回れるということです。競技中には、ベタベタの無風・微風なんてことは滅多にないのです。上昇風が地形に強く依存することを思い起こせば、対気速度だけではなく、対地速度も重要だと言うことに強風時には気づかされます。
 「先生」(鳶)の体重は、なんと1kg弱にもなるそうです。彼らは重い体重をL/Dに転換し、なるべく広い空域・・・いや地域で餌を探そうとしているのです。

2009年2月11日水曜日

打ち上げ高度のために3 筋力について

 HLG競技に加齢はどのような影響を及ぼすでしょうか?一般に身体を使うスポーツは多かれ少なかれ、加齢の影響を受け能力は減退する方向に行きます。
 「私はもう、年だから、若い人にはかなわない」本当にそうなのでしょうか?もっと向上できる余地があるのに、駄目な口実として、筋力向上をあきらめていませんか?
 年配者が若者を打ち負かしてしまうスポーツは、こと機材スポーツでは珍しいものではありません。年配者は思慮深く、ある意味無鉄砲な若者よりも素直に物事を吸収し、目を見張るような能力を発揮する力を持っています。自分のことがよく判っているために・・・自分の生かし方に於て迷いというものが少ないように見えます。

 打ち上げ高度を得るために必要なトレーニングはなんでしょうか?腕立て伏せ、鉄アレイ運動、それが長続きすれば申し分なく、非常に強力な武器に変化するでしょう。ただ、地道な鍛錬は20世紀のもので、今は別のアプローチがあるように思えます。
 まずは、考えてみましょう。運動の全ては脳が司っているのです。ゆっくりと身体を動かしながら、ものを投げるという動作を分解し、最高の速度で射出するためには、どのようなフォームが自分にとって望ましいのか、を全て考えます。ビデオで打ち上げの様子を撮ってもらうのも良いでしょうし、上級者の投げ方を参考にするのも良いと思います。大事なのは、全ての動きを分解バラバラにして、どの動きが次の動きにどのように繋がるのか、細かに分析してみることです。-最終的に必要なのは射出速度で、その為に必要な動作以外のものはなぜその動作をしてしまっているのか、それが本当に必要なのか、を吟味します。そして、改良のためには旧来の動作を自分に染みつかせないことです。常に柔らかい頭で変化を受け入れられるのであれば、その人に老化というものはないことでしょう。分析が済み、なすべき事の優先順位を決めたなら、それを一つずつ実行し、結果を吟味し、再トライを繰り返します。

 筋力について言えば、野球のピッチングやゴルフのスイングを向上させるためのトレーニングが参考になることでしょう。見落とされがちですが、下半身をきちんとさばけることがきわめて大事です。物事は土台から上に積み上げるものです。下半身が踊っていれば、上半身も踊ってしまい、軸の通った打ち上げは難しくなります。散歩・自転車・階段の上り下りでさえ、HLGの為の能力向上と考え楽しんで行うようにすれば、日常生活までが楽しい遊びに繋がってゆくものとなります。

自機の作業時間を知る

 あなたの機体は、打ち上げてから着陸するまで何秒間滞空できますか?

 この質問に答えられない競技者は、私と同レベルで精進が足りません。上下方向に全く風がない場合・・・ほぼ存在しない状態ではありますが・・・にあなたが可能な限りの高い打ち上げを行い、その機体が地面に戻ってくるまでの時間を正確に計測しておくべきです。最小沈下率での時間を知りたいので、キャンバーは熱上昇風モードにセットしておくとよいでしょう。だれもライバルがいない早朝にこっそりとフィールドに出て、ストップウオッチ片手に計測を行います。

・・・なぜこっそりかって?「何してるんだ?」と問われて作業時間云々などということを説明すれば、小賢しい奴と思われるのが落ちだからです。もし、質問者が深い理解を示してくれた場合でも・・・その時間は明かさない方がいいでしょう。手の内を見せるようなものですから。

 得られた時間が、あなたのカラータイマーです。最初の1/3、中盤の1/3、終盤の1/3を何に使うか。

 チャンスは高度の自乗に比例する、という考え方からは、最初の1/3はギャンブルを行うのに最も適した時間だと言うことがわかります。思い切り足を伸ばし、上昇風をサーチするのに当てるのがよいでしょう。

 不幸にして最初の1/3時間中に上昇風に恵まれなかった場合、次の1/3時間は最初の1/3時間の40%ほどの確率でしか上昇風を捕まえるチャンスがありません。他競技者の様子を素早く観察し、戦術を瞬時に決めます。ライバルが同じような高度でもがいている場合、上昇風を見つければ相手をやっつけることができます。対して、相手が既にずっと高い場合・・・この場合は千分率勝負でなるべく低い点数を取らないように飛び方を変更するべきでしょう。走り回る飛び方から、1秒でも長く滞空する飛び方に変更します。キャンバーを下ろし、更に注意深く速度制御を行い20キロメートル毎時を少し割るくらいの速度で「上昇風を探す悪あがきをしながら粘り強く滞空」するのが良いでしょうか。
 上昇風のみが味方になるわけではありません。降下を続けてしまっていても、それが0.3m毎秒より少ない地帯・・・弱いリフト帯でもリフトはリフト・・・を探し、なるべくそこにとどまります。すぐ隣で競争相手が魅力的に見える上昇風でくるりと回っても、経験上そこに飛び込んでいくのは自ら負けに行くようなものですので避けた方が無難です。考えてもみてください、あなたはライバルの「下」にしか飛び込めないのです。下の方によりよい上昇風がある確率は、ほぼゼロですが、ライバルが急に下降風に捕まってしまう確率は、かなり大きいことでしょう。

 最後の1/3時間は・・・チャンスはたったの10%ですが・・・ウエーブや地面効果を利用できますので、運動エネルギーを消費する操舵を控え、ひたすら粘りましょう。大事なのはやはり、速度を落としすぎない事です。時速17キロを割ると、あなたの機体の性能は急激に悪化することをいつも忘れないようにしてください。

打ち上げ高度のために2 上がる機体とは

 打ち上げ高度の高い機体を手に入れるのは、経済力のある競技者にとってはとても良い手段です。他ジャンルと違い、F3K競技に使用される機体の価格は一般的に低く、非常に労働集約的な製品にもかかわらずそのほとんどが10万円以内で全てが揃うというものになっています。10万円は確かに安価とは言えませんが、それで競技の上位に入れるだけの機材が手に入ると考えれば、比較的ローコストな機材競技とも言えるかもしれません。
 さて、打ち上げ高度の高い機体とは、どのような機体なのでしょうか。前項でほぼ解答はでており、以下のような機体です。
  1. 打ち上げ時に抗力が少ない
  2. 重量が少ない
 抗力が少ない機体とはどのような特性のものでしょうか。最近では、翼弦長が150ミリ前後にもなる翼面積の小さな機体が出現してきましたが、重要なのは面積なのでしょうか?それとも翼弦長なのでしょうか?それとも面積と翼弦長・スパンより導出されるアスペクトレシオなのでしょうか。
  • 翼面積が同一で、150ミリと180ミリの翼弦長の差を持つ主翼の、時速100キロ毎時時の抗力は、前者の方が約2%、少ない。
  • 同じ180ミリで、翼面積が20デシ平方と22デシ平方では前者の方が7%、抗力が少ない。
  • 最大翼弦が150ミリ、翼面積が20デシ平方、アスペクトレシオが11.25と16.2では前者の方が7.5%、抗力が少ない。
  • 翼面積同一、150ミリ翼弦長で、翼厚が90%と100%の場合、前者の方が17%、抗力が少ない。
 上記はSuperGee2の設計を種々変更した場合の例です。どの様な胴体・尾翼が付属するか解りませんので、当然翼のみの解析です。
 上記の事実より、支配的なのはまず翼厚、次いで前縁投影面積(翼長)、翼面積であることがわかります。そしてアスペクトレシオと翼弦長自体はあまり重要でない。

 翼面積が適度に小さく、翼厚が適度に薄く、全備重量が軽ければ・・・より高い打ち上げ高度が得られる機体である、と推論できます。
 機体ベンダは、消費者に情報を提供するため、少なくとも翼面積や最大翼弦長、設計重量を公開すべきでしょう。

打ち上げ高度のために1 機体のセット

 打ち上げ高度をとりたい場合、今の状態から何が改善できるか冷静に考えてみましょうか。
  1. 機体のセッティングを見直す
  2. 今の機体を捨て、良く上がると言われる機体に買い直す
  3. 打ち上げするための筋肉を増強する
  4. 投げ方を工夫する
本稿では、先ず「機体のセッティング」について述べます。

これは、以下の2点に収束します。
  • 空気抵抗を削減する
  • 重量を削減する
*重量について。
 打ち上げ動作をごくおおざっぱに表現すると、ある一定の力積を与える動作と簡略化できます。打ち上げ直後の機体の持つ運動エネルギーはこの力積(力×時間)に比例します。この式に重量は顔を出しませんので、打ち上げられた直後に機体が持つ、上昇のためのエネルギーは重かろうが軽かろうが同じです。同じエネルギーを与えれば、軽い機体の方が高い高度に達するのは自明です。
 高度の持つ位置エネルギーはmghで表現されますから空気抵抗を無視して考えると、機体重量が10%削減されると、到達高度は10%伸びることでしょう。実際には空気抵抗は後述のように無視できるものでは到底なく、初速が早いほど大きく効きますから、10%までは達せず、精々5%から7%程度になると思われます。ともあれ、有効な手段であることには違いありません。

空気抵抗について
 空気抵抗は、おおまかに速度の2乗で大きくなります。加速分まで考えると、空気抵抗は与えるエネルギー=競技者の筋肉に対して3乗の要素になり、非常に大きな影響を持つことがわかります。
 SuperGee2の設計の場合、最良の取り付け角でも約115gの抵抗が130キロ毎時での打ち上げ時に発生します。
 空気抵抗の削減のために何ができるでしょうか。先ず、主翼や尾翼を固定している支柱を翼断面にします。同じ投影面積を持つ円柱と翼型とでは、後者の方が約1/8~1/10も抵抗が小さいのです。ペグやリンケージの突き出しも極力小さくし、かつ前面を丸め、後縁を薄くのばし翼型に近づけます。それが不可能であるのなら、流れの速度の遅い胴体にぴったり沿わせるように配置します。

*取り付け角について
 最も大きな空気抵抗の削減方法は、ブームに対する主翼と尾翼の角度関係-取り付け角を見直すことです。取り付け角は、ゆっくりとした飛行時の特性にはほとんど影響を及ぼしません。それはトリムを与えることで小さなファクターとなります。
 打ち上げ時には非常に大きく効きます。打ち上げ時にほぼまっすぐ飛ぶようなトリムを与えたとき、ブームやポッドを含んだ抗力が最小に・・・つまりは空気抵抗が最小に・・・なるように取り付け角をセットします。これは、前縁投影面積が最小という条件とは一致しないことに注意を払う必要があります。HLG用の多くの翼型では、-0.5度付近の迎角で打ち上げ時に必要な浮力に対し抗力が最小になります。
 通常飛行時にも取り付け角は意味を持つことは持ちますが、前述の通りトリムで解決できます。繰り返しますが空気抵抗は速度の自乗で効きますので、低速時よりは高速時のセットにより注意を払うべきです。ごくおおざっぱには、HLGで使用される翼型のほとんどでは、取り付け角はゼロ-ゼロ-(ブームに対して)が一番抗力が少なくなります。

2009年2月10日火曜日

打ち上げ高度至上主義

優れたグライダー、優れた競技者とはなんでしょうか。それを「勝てる」ものであると定義するなら、最優先されるべき特性は「打ち上げ高度が高いこと」に間違いありません。
  • いや、俺のグライダーは最小沈下率が小さいぞ。打ち上げ高度は取れないが。
 これは低高度からの滞空時間が長いことを意味します。低空の上昇風ほど不安定で掴みにくいことを考えれば、あまり良い状況とは言えません。同じ打ち上げ高度なら、競技者がRCカーのようにお立ち台に登って、少しでも高い空気から探索を始め、お立ち台の高さを切ったら着陸と見なす、ほうがまだましです。低高度の上昇風は気まぐれで、小さく、荒れており迎え角をガタガタゆさぶります。地面は迫り、競技者に心理的圧力を掛けます。

 打ち上げ高度50mの中で、最も熱上昇風を掴みやすい高度範囲、そんなのわかるわけないだろ。定量的じゃないね。・・・その通りですね。では、上昇風を掴むチャンスが50mの中に均一に分布しているとして、貴方が高度5m以下で上昇風を掴む確率と、高度50mから45mの中で掴む確率は同じでしょうか?どうです?地上5mの中には屈辱しか埋まっていないように思えます。

・・・むろん、そこから上げ直し、ライバルを打ちのめせば一躍ヒーローですが。

 打ち上げ高度は、高度の自乗倍の強度でチャンスが与えられることを思い起こすべきでしょう。多少他を犠牲にしてでも、打ち上げ高度が高い競技者と機体が、勝ちに恵まれるように思います。

 他競技者に与える心理的影響も無視できません。敵の機体の特性がわかっていない場合、先ず打ち上げ高度が低いだけで「まいったな」という気分になります。「打ち上げの途端、もう差がついちゃってるんじゃないか」
 日の下に新しいものなし。良く観察をすれば、同じ上昇風に入ったときの上昇率が良くない=最低沈下率が劣る、とか、足を伸ばしたときの沈下が大きい=L/Dが良くない、といった弱点が見えてくるはずであり、悲観するばかりでもないはずですが、競技中は脳の処理能力のほとんどが操舵に奪われるのでそこまで気が回りません。
 さらに悪いことに、打ち上げ高度の低い機体は、高度の高い機体のウインド・ダミー(風見)にされてしまいます。上を飛ぶものにとって、これほど楽なことはありません。他の低い機体は、全てサーマルセンサーなのですから。

 どうすれば高い打ち上げ高度が取れるのか、考えてみませんか。

揚げたら、走れ。

 首尾良く熱上昇風に乗って、トップアウト(上げ切ること)したら、勝ち誇ったように上空でうろうろしているなんて、未熟者の証です(私なのですが)。
 上げ切ったなら、次の投に備え、周囲の空気を読むために走るべきです。たった今上げ切ったサーマルが次の投にある保証はありません。シンクはどこか、上昇帯はどこに移動したか、そして投までの時間経過を加味し、投げた瞬間にどこに上昇帯が移動しているのか、、等の情報を走ることにより得ます。
 戦闘では、気を抜いたら負けです。全ての時間を勝つために使用します。

上昇風中の操舵

多くの競技者は、他の競技者をだしぬいて熱上昇風を捕まえたことに浮かれ、荒い舵を打ちがちです。競技で一番良い成績を収めたいのであれば、荒い舵は慎むべきです。操舵はロスであることを肝に銘じます。熱上昇風に入ってコアを捕まえたならば、対気速度の維持に注意を払います。これは、最小沈下の迎え角を維持することと等価です。SuperGee2の設計の場合、最小沈下速度は約17キロ毎時、その時の迎え角は約5.5度です。迎え角の微妙な変化を遠方から確認することは不可能ですので、速度で代用します。無論、バンク角が大きくなるとそれは更に早い方向に行きますので、大凡時速20キロを維持するように旋回を続けるのが良いところでしょうか。時速20キロとは、運動不足の中年の競技者が全力疾走するのとほぼ同じ速度、シティサイクルの叔母様が国道を走り抜ける速度とほぼ同じです。案外速いのです。ゆっくり飛ばせば最小沈下速度を外れ、さらに失速の危険性も増しますので良いことはありません。速めの速度で回すことで、よりよい順位を手に入れることができるでしょう。

サーマルコアのサーチ

機体はその機体の持つ最小沈下率(たとえばSuperGee2の設計通りであれば約0.28m/Sec)よりも、上昇風の持つ垂直成分が小さい場合、対地高度を獲得することはできません。まして、上昇風の中で愚かな競技者(私のことです)はバタバタと操舵をしますので、最良の迎え角(機体のブームに対して約5.5度、速度にして約17.0km/h)を保つことができません。結果、1m/Sec近くもある極上の上昇風でないと「乗り切れなかった!せこいサーマルだ!」などという未熟な台詞を吐く羽目になります。

ウデの未熟な私は、同じ上昇風であれば最も良く上昇できる場所を探さねばなりません。一般的には、1周のセンタリングの間に最も上昇率のよい角度、その方向にコアがあることが多いものです。次の1周で、さっき上昇率が良かった方向へのフライトパスを長く取ります。これを繰り返し、熱上昇風の中心を探します。

素早く揚げるとは

うまいこと上昇風を見つけたなら、ある見極めを行った後にそこになるべく長時間とどまる努力をします。見極めとは、その上昇風の種別。熱上昇風であれば、旋回(センタリング)を繰り返し高度獲得することができますが、それが気流の盛り上がり(ウエーブ)に過ぎないこともあります。またその両者が混じり合ったような上昇風の場合があります。
見分け方は簡単ではありませんが、以下、熱上昇風の可能性が高い場合の機体挙動を示します。

・機体の一部が蹴られたように上がる(もしくは下がる)
・飛行速度が速くなったように見える
・舵の効きが良い

対して、ウエーブの場合は上記の反対となります。

・機体全体が持ち上げられる
・飛行速度は変わらない、対地速度はむしろ遅くなる
・舵の効きに変化無し
・風が強い場合が多い

ウエーブの場合、ベンチュリー効果で気流の流れる速度が速くなっていますので、風に正対している場合、対地速度は遅くなったように見えます。
ウエーブの場合、センタリングを行うのは得策ではなく、多くの場合、キャンバーを下ろして凧のように漂うか、小さな8の字旋回を繰り返してその空域に留まるべきです。それでも、多くの場合は、機体の持つ最小沈下率(約0.3m/毎秒)よりもよいウエーブがあることは希で、粘っていてもじわりじわりと高度を落としてしまいます。熱上昇風混じりのウエーブが飛び込んでくるのを辛抱強く待ちます

見つけたのが首尾良く熱上昇風である場合、すぐに転舵しサーマルのコアのサーチに入ります。これは別稿にゆずります。

よりよい条件でのサーチ

高く上げてさっと走る。では走るときには何に注意を払ったらよいか考えます。
  1. 無駄なサーチをしない
  2. 上昇風のありそうな場所を探す
  3. 下降風を避ける
 無駄なサーチに関しては、OldBuzzadで述べられているので特に重ねませんが、たかだかL/Dが16前後のHLGについて言えば、ジグザグサーチは効率が悪いように思います。ターンを行っている時間中は、ほぼ同じ空域に留まってしまうわけで、ターンの半分を費やす時間はほぼ無駄に費やされてしまいます。ターン全体で約2秒を費やすとすると、時間にして約1秒、獲得高度で0.3mを無駄にしてしまいます。
 さらに悪いことに、操舵は速度を殺す操作になります。ターン後は加速のために更に高度を落とす必要があり、効率悪いことが解ります。
 HLGの場合、基本直線飛行、それも偏流60~30度程度をしながら風上に向かうのが効率がよいように思います。

 平らな地面の上をサーチし続けることは無駄が多いものです。熱上昇風の生い立ちを考えれば明白です。上空の空気よりも僅かに暖かな大気は、何らかのきっかけを以て上昇風に変化します。極めてゆっくりと、静かな環境で暖められた大気は、地面に長い間へばりついていることでしょう。それが剥がれて上昇風に変化するためには、地面の起伏、地面の表面特性の変化、木や建物などの遮蔽物などに衝突すること、が必要です。
  • トタンの屋根(最近はガルバリウム鋼板と言うそうです)
  • 競技者の乗ってきた自家用車(黒塗りならさらによい)
  • 小屋や建造物、土手などの突起
  • 冬の野原の枯れ草
  • 野原の中のアスファルト道路
  • 立木
 全く無風の時という条件は極めて希で、大体は風速1~6mの風が吹いている事と思います。地面にへばりついた熱空気は、風に押しやられながらユラユラと漂い、前記のきっかけを契機にして回りの熱空気を自身に引き寄せながら地面から剥がれ、風に乗って流れながら熱上昇風に変化してゆきます。
 熱上昇風のこの様な生い立ちを考えれば、前記変化のある場所の若干風下側の上空をサーチするのが最も理に適っていることが解ります。

 下降風は、前記上昇風のことが頭に入っていれば、逆の操舵をすることにより避けられる確率が高まります。熱上昇風が上昇するのと同じ体積の下降風が、上昇風の周囲に生じます。恐らく・・・ですが、その分布は、風に対して熱上昇風の前方に多く、また後方に多いケースが多いように思います。無論、地形的要素を無視はできません。小さな池のそばに熱上昇風が生じたとき、下降風は高い確率で池の上から生じることでしょう。暖まりにくい、もしくはしめった場所の上を飛ぶことを先ずは避け、下降風に入ったら迅速に操舵を行いフライトパスを転換することで、先ずは下降風を避け、さらには上昇風に入る確率を高めます。フライトパスの転換角度ですが、60度から120度の間が良いように思います。

2009年2月9日月曜日

上昇風サーチ能力

 ハンドランチグライダーに於ける、勝つための重要な要素、素早く上昇風を探すためにはどういったことが必要でしょうか。
 一般的に「足がある」「足がないが浮く」などの表現がとられます。「足」とは何でしょうか。中速域(時速25キロ毎時以上の速度が取れる迎角で飛ぶとき)での滑空比L/Dと言えましょうか。
 パワフルな競技者によって高く打ち上げられたグライダーが、上昇風をサーチすることを考えます。このとき、ゆっくり飛んではいけません。ゆっくり飛ぶと、上昇風に対する機体の反応はよく見えますし、最小沈下率あたりの迎角を使用すれば、降りてくるのも遅そうに見えますが、前項の通り上昇風をサーチする面積は、フライトパスの2乗に比例するために、足を伸ばさないゆっくりとした飛ばし方は不利なことが判ります。

 もう一つ、下降風帯を突っ切る(すぐに90度のフライトパスに操舵すべきですが)場合、最小沈下率あたりのゆっくりとした速度では、突っ切る時間が長くなります。

 上空に打ち上げたら、キャンバーを最小沈下率の位置に下げるべきではありません。むしろ、クルーズもしくはスピード!の位置に操舵し、スピーディーに上昇風のサーチに入るべきです。上昇風のただ中に入ったところで初めて、キャンバーを最小沈下率の位置(多くの翼型では+2度前後)に下ろし、素早い上昇を行います。

ランチ高度

 321をやるからには勝ちたいものです。クラブ内でも、競技会でも同じ。俺は勝ち負けには興味がないからといいつつ、やはり勝てると気分がいいものです。
 それに、勝つというのは自分がどれだけ上達したか、また良い機体を持っているのか、という指標になります。ずっとへこんでいた人が、最新鋭機を入手したとたん負けなくなった、ということがあります。
 負けないというのはどういう事なのか。ハンドランチ競技には先ず以下の要素があると考えます。

  1. より高く打ち上げること。
  2. なるべく素早くサーマルを発見し、乗ること。
  3. より丁寧な操舵をし、効率よく上昇すること。
 上記は一人で飛ばす場合でも集団で競う場合にも大事な事項です。
 
 より高く、は、より広く・より長い時間、上昇風を探索できることを意味します。滑空比が同じだとすると、50mの打ち上げ高度の競技者と、60mの打ち上げ高度の競技者がサーチできる面積は、非常に単純な例として円形に回りながらサーチすることを考えると、高度分だけ円周長が長くなりますので、サーチできる円の面積は円周長の約2乗に比例し、前記の例では、60mの打ち上げ高度を持つ競技者のサーマルヒット率は50mの競技者の約1.44倍になります。

 円形の真ん中にサーマルがあれば検知できませんし、軌跡長もものを言いますので2乗というのは正確ではないにしろ、実際競技した感覚では2乗に比例すると言い切って構わないと思います。

 実際の滑空場では、低空にある熱上昇風ほど気まぐれで不安定であり、捕まえにくく、捕まえたとしても上昇率があまり良くはない、高度が上がれば安定したそれを捕まえやすいという要素もあります。

ランチ屋

自身の考えを整理するために、ハンドランチグライダーに関する諸々を記していきます。