2009年12月16日水曜日

対気速度は翼の命

 みんなゆっくり飛ばしすぎです。

 翼にとって、命の流れ、血液、食べ物、エネルギーとは何でしょうか。どんなに高性能な翼でも、地面に置いておけば何も起きません。精々突風に飛ばされてパイロットが慌てふためく程度でしょう。空に打ち上げられ、いきいきと駆け回るために、彼には何が必要でしょうか。

 ご存じの通り、翼に命を吹き込むのは大気の流れです。どんなに優れた翼型を採用した主翼でも、対気速度を失ってしまえば板きれも同然です。

 右上の図の白い曲線は、SuperGee2翼のクルーズモード時の特性です。右側が滑空比、左側が沈下速度です。横軸は共に対気速度を表しています。クリックをすると大きな図になります。
 各図の左側がぷつんと途切れていますが、これは計算をやめたわけではなく、ここで失速が起きて居ることを示しています。ですから、このまま曲線が外挿されて続いているわけではなく、この先は奈落の底…ピッチングを起こして罵声を浴びる死の淵なのです。

「このへたくそ!」
「あかん!下手過ぎや!」

 速度が落ちれば操縦がある程度楽になるように思えますし、サーマルの中でも良く浮くように思え、その様に記述をしているサイトもあります。しかしこれは誤りです。実機グライダーの初心者パイロットが教官に頭をこづかれながら覚える、最大滑空速度・最小沈下速度…これこそが大事な数字であって、それ以下に速度を落とすことは着陸するとき…すなわち「下に行きたい」時以外にはないのです。

 カーブによると、性能が最大になる一点の速度より速いほうと遅い方の比較では、速くなる分には徐々に性能が劣化しますが、遅くなる方ではより急激に性能が落ちることがお解りになると思います。すなわち、あなたは対気速度を殺して危険な崖っぷちに近寄るべきではなく、どうせ悪くなるのなら速度の速い悪い方のほうが格段にマシなものだ、ということです。速いほうの窪地に居て、崖から落っこちるライバルたちを眺めていればよろしい。競技にも、リスクマネジメントは必須なのです。

(マゼンタの曲線は、日本国産の市販機を購入し、翼型をトレースして計算機に入力し、同条件での解析をした結果です。最良の場合で、SG2と比べ滑空比が約1.0向上しています。これを、支払うコストの割りには少ないと見るか、多いと見るのかはそれぞれのパイロットの価値観に任せましょう。)

 真っ直ぐに速く飛ばす練習をしてみてください。機体の調整をキチンと行い、クルーズ状態ではエレベータの補正無しで真っ直ぐ、ピッチングにもダイブにも入らないトリムを出すのは大前提です。
 真っ直ぐ飛ばすコツは、ブームと地面を平行にすることです。機体が下方向にお辞儀をしてしまうより、偉そうに上ずるほうが危険です。兆候を素早く察知して、的確にダウン舵を操舵してください。

 真っ直ぐ飛ばすことができるようになったら、今度はより楽しく難しい、センタリング中に速く飛ばすことを覚えます。センタリング中は、完璧なドリフトをしていない限り、円周の中で対気速度の変化が起きやすいので大変です。ただ、コツはそう難しいものではなく、真っ直ぐ飛ばすときと同じように、ブームを地面と平行にすることです。

 慣れてくると、熱上昇風中で上昇する速さが、今までと違ってきたことに気づくでしょう。もしくは、今まででは乗り切れなかった渋い熱上昇風に乗れている自分に気がつくと思います。

 誰にでもできることです。できないのではなく、やろうとしていないだけです。グッドラック。