2009年3月18日水曜日

シーズン1の終了

 前稿までで本ブログのシーズン1を終了します。

 ずいぶんいろいろなことを書きました。私から発信できることはなるべく丁寧に、わかりやすく、演繹的また論理的に記述してきたつもりです。だらだらと描いてあるようにも見えますが、自分としてはできるだけ細部にまで注意を払い、文章を置いてきました。この作業はかなりの下準備とエネルギーを必要とし、それを継続することには一定の心理的圧力を要求されました。

 ちょっと前まで…前世紀まで…は、ノウハウは個人の資産で、それを公開することは損をすることを意味していました。前世紀までは。21世紀は別の価値が支配するのだと思います。公開し、共有し、力を合わせてさらに高みを目指すやり方こそが、もっとも求められまた理にかなったものになってきつつあります。石油も、原子力も、経験も、時間も、能力もすべて資源なのです。すべてのリソースは、大切に、わけあって使用するのが当然で、内に秘め独占をすることは時代遅れとなり世界のうねりから取り残される状況になりつつあると確信しています。

 日本のハンドランチグライダー界に、積極的な情報の公開と共有を行おうという方が少ないのは非常に残念なことです。殊にベテランの方、成績上位者の方からの情報は不足しているように思えます。経験に裏打ちされた情報は、これからこのきわめて楽しい趣味を始めようという方、また、非科学的な”見て盗んで覚えろ”という閉鎖的な情報伝達にあきあきした方には何者にも代え難い貴重な情報となるはずです。

 私のような初心者の出る幕では本来ないのです。

 きわめて優秀なAG翼型を惜しげもなく公開しているドレラ博士、またRCグライダー界に於ける希有の名著 Old Buzzard's soaring bookを日本にもたらした浅見氏に続く方がこの美しい国、日本より再度現れることを強く願いつつ、シーズン1の筆を置きます。

(追補:誰かが発信してくれた情報を、受け取るのが当然、自分は黙っている、もっと悪いことには評論しかせずにいるような人間には、残念ながら進歩はないでしょう。共有とは、全員が発信者・創造者であり、受信者・享受者であるということです)

2009年3月16日月曜日

打ち上げへの考察

 僕の今日のお昼ご飯は、昨日の夕ご飯のリアレンジ品。
おなじおかずでも、ほんのすこしトッピングを替え、趣向を凝らせばちょっと嬉しいランチにありつけます。お昼休みごとに外に食べに行ったのでは、ゆっくりと瞑想にふけりながら時にグライダーの飛翔に思いを巡らす、居眠りという貴重な時間が短くなりますし、お昼代金もかかります。第一外食のように塩分が多いと身体にも良くないですしね。ランチ屋ですから、ランチには拘ります。

 打ち上げ高度をもっと上げたい場合、何をすればいいでしょうか。昨日と同じ投げ方では、入力がおなじなのですから違った出力は出てきません。何かを変えなくてはいけません。
 新しいことを行うと言うことは、今まであった古いものを壊す必要があると言うことです。かのインドのヒンドゥの教えでは、破壊の神シバは、創造の神ブラフマー、維持の神ビシュヌと並び、崇められます。不要と思われるものを捨て、新しいものをその上に打ち立てないことには、進歩は得られません。変えるという事の第一歩は、今までのやり方を捨てる、ということです。
 多くの人が「なんだかずっこけそうになる」「しっくり来ない」という理由で、打ち上げのフォームを改造することを拒むのは、尤もだと頷けはしますが、他人の同意が得られたところで打ち上げ高度は1mも上がりはしません。ゴルフや野球を引き合いに出し、フォームを改造しようとして深刻なスランプに陥る例を言い訳する方も居られますが、それは神経質に過ぎます。過てば戻るだけ、なにも損はないのです。

 ではなにをしたら良いのか、どこから手を付けるべきなのか。最後から最初への改良と、その逆、両方の手法が考えられます。リリースに近いタイミングに行う事象から改造する・・・たとえば最後に腕を引きつける・・・これを最後からさかのぼる改良、お昼ご飯のトッピングを施す作業にたとえるならば、一歩目の踏み出し方を改造するのは残り物でなく、新たにご飯を炊き、おかずを作り上げる作業とでも言えましょうか。物事は土台から積み上げるもので、改造する場合も土台から打ち壊し、改造を加える方がドラスティックな効果を期待できますから、一歩目から変えてみましょう。
 この場合、投げ方は人により千差万別ですが、典型的な例として以下のパターンを上げてみましょう。
  • ある程度の助走の後に最終フォームに入る投げ方。
  • 3~4歩のある決まった歩数を以て投げるやり方。
 どちらでもしっくり来る方で良いと思いますが、人間の走る速さが大したことはないこと、また回転動作の中心軸の片方は地面に接地し、容易に動かせないという事実を勘案すれば、走ることを前置するやり方は、打ち上げ速度にそれほど寄与するものではなく、むしろ最終フォームを形作るために必要な動作と言えましょう。ですから、重要なのは走り始めのステップではなくて、リリースの瞬間から逆に数えて数歩だと言えるでしょう。そうなると上記の二つのスタイルともおなじに扱うことができましょう。

 右の図は、ある競技者における打ち上げ動作の最後の数ステップを示しています。解りやすいように、右足は青色で示しています。回転する動作が②と③の2箇所にあることがわかります。ここで回転を行い、腕の先に位置するグライダーを加速しています。このポーズに入る際に、効果的に回転できることが極めて大事なことが解ります。加えれば、2歩目のキック動作で3歩目の回転を大きく加速できますので、2歩目の回転動作を効果的に力強く行い、3歩目の射出動作にスムースにつなげることこそが動作の中心、心臓部になると言えましょう。
 以前の稿で述べた、グライダーの初速は与える力積=力×時間が増えるほど速くなるという事から、回転するストロークを多く・長くとるほうが加速に有利なことが解っています。このためには、最終の射出ポーズの直前までに身体にひねりを残しておくことが有効です。言い方を変えると、足を先行して運び、腰から胸までは残しておけば、その蓄えられたひねりを戻す動作が加速に有効に作用します。足の運びと残っている身体の差は大きければ大きいほどひねりの力も大きい。繰り返しますが足の運びを大げさに取れば・・・この様な書き方しかできないのは隔靴掻痒、もどかしいのですが・・・足だけが先行し、強力なバネとなるべきひねりを残せる足の位置が見いだせるはずです。
 身体のねじりバネを長い距離をもち解放しつつ、②のキックを加え、最終射出にスムースに接続します。この様な投げ方ができれば、加速区間が長いので、以下のメリットが生じます。
  1. 機体にかかる加速度が小さく、また変動が小さいため、機体に負担がかからない。これは補強による無駄な重量の増加が抑制できることを意味する。
  2. 身体にかかる負担が小さい。
  3. 加速がなめらかなため、ペグから指が外れにくい。強風時でも安定した射出ができる。
 頭で理解したら、身体を動かす番です。奥様や子供達にからかわれようが何しようが、身体を動かし始めて下さい。機体の性能には限界がありますが、人間の能力向上は限りがありません。

 一つだけ補足を加えておきます。②・③の位置では、なめらかな回転が必要ですから、必要以上にグリップの良い靴は回転の妨げになることがあります。また、足をひねる力も大きくなりますから踵や膝にトラブルを招きやすいことには十二分に注意してください。履き慣れたスニーカーのような割とありふれた靴が良い結果を生むように思います。

2009年3月9日月曜日

サーマルの生い立ち

 穏やかなインディアン・サマー、連れてきた子供達と外で弁当を広げ、お昼にするとき、何ともいえない幸福感につつまれます。さわやかな風が時折、お弁当の包装をくすぐり、時に袋などを連れて行ってしまいます。「重しを置いて、ゴミを散らさないようにね」

 一緒に付いてきたお父さんは言います「時々吹くこの風は、サーマルだよ」。お母さんは全く無視ですが、子供達は「サーマルって、なに?」。

「サーマルはね、熱上昇風っていうんだけど」

 ・・・地面や大気には、暖かい部分と冷たい部分ができます。暖かい部分は太陽光に暖められたり、冷たい部分はしめったところだったり、雪が積もっていたり。とにかく、地球が回っている限り熱上昇風はどこかにあります。雨が降っていようとも、夜中であろうとも、それはできます。天気図の上に低気圧と高気圧が尽きないように・・・熱上昇風も尽きることがありません。それは「必ずどこかにある」のです。
 温度差があると、暖められた軽い空気は、上昇しようとします。もしくは、周囲の重い空気は、軽い空気を押しのけて下に潜り込もうとします。

 空気は軽いものの代表のように考えられます。その重さは・・・1立方メートルにつき、約1.2キログラムです。1.2キログラム!あなたのグライダーなど押しつぶしてしまう重さです。重い空気は、暖まっても簡単には動こうとはしないでしょう。空気の粘性も無視できません。何と、水の1/50でしかないのです。動粘度に至っては、空気の方が10倍以上も大きい。あなたの回りの大気は、思ったよりもベタベタネバネバしているのです。

 こういった大気は、容易には動こうとしません。なにかきっかけがないと、そこでよどんでいます。以前にも書きましたが、立木や地面の変化(川や水たまり)、自動車や建屋、崖、地面の盛り上がりや裂け目などの障害物に当たると、やっと空気は重い腰を上げ上昇をはじめます。
 さっき書いたように空気はネバネバしているため、回りのやはり暖まった空気を引き連れて移動しようとします。半球形のドームのようなものが、成長を始めます。同時に、コリオリの力により、反時計方向に渦を巻き始めます。それでもまだ、暖かな空気はそこで頑張っていますが、やがて耐えきれなくなり剥がれ、さらに周囲の空気を引き込みながら上昇を始めます。
 重い空気が渦を巻きますので、仮想的な力である遠心力がすかさず働きます。結果、何が起きるかというと、中心部が吹き上がり、周囲部に向かって吹き下ろしながら、ちょうどドーナツのような形状のものが周囲吹き下ろし、中央部吹き上げ、で上昇してゆくと考えればいいでしょう。
 ただし、実験室ででも無い限り、綺麗な形状の熱上昇風が立ち上がることはなく、いびつな形状で上がっていくことが多いものだということは忘れないように。
 一度熱上昇風が行ってしまうと、その地域に再度熱上昇風が生じるまでには、充電時間が必要になります。また、熱上昇風は風の流れのなかで移動していることも考慮が要ります。

上記で解ることは、以下です。
  • 熱上昇風は、どこかにへばりついている。
  • きっかけがないと、剥がれて上がり始めない。
  • 反時計方向にゆっくりと渦を巻いている。
  • 周囲部分は吹き下ろし、中央は吹き上げ。
  • おなじ場所に周期的に生じる可能性がある。
  • 暖められる場所が変われば、発生する場所も変わる。
そうすると、すぐに以下のように考えて飛べばよいことが解るはずです。
  1. さっきサーマルが発生していた場所には、時間を置いてまたサーマルが発生する可能性が高い。
  2. 地面に「きっかけ」のある場所の風下を飛ばす。
  3. 右旋回の方が多少、効率がよい。
  4. 熱上昇風の境界では、下降風に蹴られるので、蹴られた逆方向に熱上昇風の芯がある。
  5. 朝/午前/昼/午後/夕方で発生する場所が微妙に変わる。
  6. 本流風の中での変形を意識して、センタリング位置を流す。
  7. 熱上昇風の回りは、下降風。脱出時は熱上昇風の球を、垂直に突っ切るのが最短距離。
  8. 小さなするどいリフトがあったときは、熱上昇風が剥がれる直前の可能性が大きい。
  9. 自分の回りの風向きが変化したときには、その風下に熱上昇風がある確率が大きい。
 常に頭の中で、自分の周囲にどの様な風が吹いているのかを想像し、周囲の大気の流れの様子の立体的な地図を組み立てて下さい。頭の中にその立体地図を思い浮かべながら飛ばすことができるようになると、あなたには熱上昇風が明確に「見える」ようになるでしょう。