2009年2月11日水曜日

打ち上げ高度のために3 筋力について

 HLG競技に加齢はどのような影響を及ぼすでしょうか?一般に身体を使うスポーツは多かれ少なかれ、加齢の影響を受け能力は減退する方向に行きます。
 「私はもう、年だから、若い人にはかなわない」本当にそうなのでしょうか?もっと向上できる余地があるのに、駄目な口実として、筋力向上をあきらめていませんか?
 年配者が若者を打ち負かしてしまうスポーツは、こと機材スポーツでは珍しいものではありません。年配者は思慮深く、ある意味無鉄砲な若者よりも素直に物事を吸収し、目を見張るような能力を発揮する力を持っています。自分のことがよく判っているために・・・自分の生かし方に於て迷いというものが少ないように見えます。

 打ち上げ高度を得るために必要なトレーニングはなんでしょうか?腕立て伏せ、鉄アレイ運動、それが長続きすれば申し分なく、非常に強力な武器に変化するでしょう。ただ、地道な鍛錬は20世紀のもので、今は別のアプローチがあるように思えます。
 まずは、考えてみましょう。運動の全ては脳が司っているのです。ゆっくりと身体を動かしながら、ものを投げるという動作を分解し、最高の速度で射出するためには、どのようなフォームが自分にとって望ましいのか、を全て考えます。ビデオで打ち上げの様子を撮ってもらうのも良いでしょうし、上級者の投げ方を参考にするのも良いと思います。大事なのは、全ての動きを分解バラバラにして、どの動きが次の動きにどのように繋がるのか、細かに分析してみることです。-最終的に必要なのは射出速度で、その為に必要な動作以外のものはなぜその動作をしてしまっているのか、それが本当に必要なのか、を吟味します。そして、改良のためには旧来の動作を自分に染みつかせないことです。常に柔らかい頭で変化を受け入れられるのであれば、その人に老化というものはないことでしょう。分析が済み、なすべき事の優先順位を決めたなら、それを一つずつ実行し、結果を吟味し、再トライを繰り返します。

 筋力について言えば、野球のピッチングやゴルフのスイングを向上させるためのトレーニングが参考になることでしょう。見落とされがちですが、下半身をきちんとさばけることがきわめて大事です。物事は土台から上に積み上げるものです。下半身が踊っていれば、上半身も踊ってしまい、軸の通った打ち上げは難しくなります。散歩・自転車・階段の上り下りでさえ、HLGの為の能力向上と考え楽しんで行うようにすれば、日常生活までが楽しい遊びに繋がってゆくものとなります。

自機の作業時間を知る

 あなたの機体は、打ち上げてから着陸するまで何秒間滞空できますか?

 この質問に答えられない競技者は、私と同レベルで精進が足りません。上下方向に全く風がない場合・・・ほぼ存在しない状態ではありますが・・・にあなたが可能な限りの高い打ち上げを行い、その機体が地面に戻ってくるまでの時間を正確に計測しておくべきです。最小沈下率での時間を知りたいので、キャンバーは熱上昇風モードにセットしておくとよいでしょう。だれもライバルがいない早朝にこっそりとフィールドに出て、ストップウオッチ片手に計測を行います。

・・・なぜこっそりかって?「何してるんだ?」と問われて作業時間云々などということを説明すれば、小賢しい奴と思われるのが落ちだからです。もし、質問者が深い理解を示してくれた場合でも・・・その時間は明かさない方がいいでしょう。手の内を見せるようなものですから。

 得られた時間が、あなたのカラータイマーです。最初の1/3、中盤の1/3、終盤の1/3を何に使うか。

 チャンスは高度の自乗に比例する、という考え方からは、最初の1/3はギャンブルを行うのに最も適した時間だと言うことがわかります。思い切り足を伸ばし、上昇風をサーチするのに当てるのがよいでしょう。

 不幸にして最初の1/3時間中に上昇風に恵まれなかった場合、次の1/3時間は最初の1/3時間の40%ほどの確率でしか上昇風を捕まえるチャンスがありません。他競技者の様子を素早く観察し、戦術を瞬時に決めます。ライバルが同じような高度でもがいている場合、上昇風を見つければ相手をやっつけることができます。対して、相手が既にずっと高い場合・・・この場合は千分率勝負でなるべく低い点数を取らないように飛び方を変更するべきでしょう。走り回る飛び方から、1秒でも長く滞空する飛び方に変更します。キャンバーを下ろし、更に注意深く速度制御を行い20キロメートル毎時を少し割るくらいの速度で「上昇風を探す悪あがきをしながら粘り強く滞空」するのが良いでしょうか。
 上昇風のみが味方になるわけではありません。降下を続けてしまっていても、それが0.3m毎秒より少ない地帯・・・弱いリフト帯でもリフトはリフト・・・を探し、なるべくそこにとどまります。すぐ隣で競争相手が魅力的に見える上昇風でくるりと回っても、経験上そこに飛び込んでいくのは自ら負けに行くようなものですので避けた方が無難です。考えてもみてください、あなたはライバルの「下」にしか飛び込めないのです。下の方によりよい上昇風がある確率は、ほぼゼロですが、ライバルが急に下降風に捕まってしまう確率は、かなり大きいことでしょう。

 最後の1/3時間は・・・チャンスはたったの10%ですが・・・ウエーブや地面効果を利用できますので、運動エネルギーを消費する操舵を控え、ひたすら粘りましょう。大事なのはやはり、速度を落としすぎない事です。時速17キロを割ると、あなたの機体の性能は急激に悪化することをいつも忘れないようにしてください。

打ち上げ高度のために2 上がる機体とは

 打ち上げ高度の高い機体を手に入れるのは、経済力のある競技者にとってはとても良い手段です。他ジャンルと違い、F3K競技に使用される機体の価格は一般的に低く、非常に労働集約的な製品にもかかわらずそのほとんどが10万円以内で全てが揃うというものになっています。10万円は確かに安価とは言えませんが、それで競技の上位に入れるだけの機材が手に入ると考えれば、比較的ローコストな機材競技とも言えるかもしれません。
 さて、打ち上げ高度の高い機体とは、どのような機体なのでしょうか。前項でほぼ解答はでており、以下のような機体です。
  1. 打ち上げ時に抗力が少ない
  2. 重量が少ない
 抗力が少ない機体とはどのような特性のものでしょうか。最近では、翼弦長が150ミリ前後にもなる翼面積の小さな機体が出現してきましたが、重要なのは面積なのでしょうか?それとも翼弦長なのでしょうか?それとも面積と翼弦長・スパンより導出されるアスペクトレシオなのでしょうか。
  • 翼面積が同一で、150ミリと180ミリの翼弦長の差を持つ主翼の、時速100キロ毎時時の抗力は、前者の方が約2%、少ない。
  • 同じ180ミリで、翼面積が20デシ平方と22デシ平方では前者の方が7%、抗力が少ない。
  • 最大翼弦が150ミリ、翼面積が20デシ平方、アスペクトレシオが11.25と16.2では前者の方が7.5%、抗力が少ない。
  • 翼面積同一、150ミリ翼弦長で、翼厚が90%と100%の場合、前者の方が17%、抗力が少ない。
 上記はSuperGee2の設計を種々変更した場合の例です。どの様な胴体・尾翼が付属するか解りませんので、当然翼のみの解析です。
 上記の事実より、支配的なのはまず翼厚、次いで前縁投影面積(翼長)、翼面積であることがわかります。そしてアスペクトレシオと翼弦長自体はあまり重要でない。

 翼面積が適度に小さく、翼厚が適度に薄く、全備重量が軽ければ・・・より高い打ち上げ高度が得られる機体である、と推論できます。
 機体ベンダは、消費者に情報を提供するため、少なくとも翼面積や最大翼弦長、設計重量を公開すべきでしょう。

打ち上げ高度のために1 機体のセット

 打ち上げ高度をとりたい場合、今の状態から何が改善できるか冷静に考えてみましょうか。
  1. 機体のセッティングを見直す
  2. 今の機体を捨て、良く上がると言われる機体に買い直す
  3. 打ち上げするための筋肉を増強する
  4. 投げ方を工夫する
本稿では、先ず「機体のセッティング」について述べます。

これは、以下の2点に収束します。
  • 空気抵抗を削減する
  • 重量を削減する
*重量について。
 打ち上げ動作をごくおおざっぱに表現すると、ある一定の力積を与える動作と簡略化できます。打ち上げ直後の機体の持つ運動エネルギーはこの力積(力×時間)に比例します。この式に重量は顔を出しませんので、打ち上げられた直後に機体が持つ、上昇のためのエネルギーは重かろうが軽かろうが同じです。同じエネルギーを与えれば、軽い機体の方が高い高度に達するのは自明です。
 高度の持つ位置エネルギーはmghで表現されますから空気抵抗を無視して考えると、機体重量が10%削減されると、到達高度は10%伸びることでしょう。実際には空気抵抗は後述のように無視できるものでは到底なく、初速が早いほど大きく効きますから、10%までは達せず、精々5%から7%程度になると思われます。ともあれ、有効な手段であることには違いありません。

空気抵抗について
 空気抵抗は、おおまかに速度の2乗で大きくなります。加速分まで考えると、空気抵抗は与えるエネルギー=競技者の筋肉に対して3乗の要素になり、非常に大きな影響を持つことがわかります。
 SuperGee2の設計の場合、最良の取り付け角でも約115gの抵抗が130キロ毎時での打ち上げ時に発生します。
 空気抵抗の削減のために何ができるでしょうか。先ず、主翼や尾翼を固定している支柱を翼断面にします。同じ投影面積を持つ円柱と翼型とでは、後者の方が約1/8~1/10も抵抗が小さいのです。ペグやリンケージの突き出しも極力小さくし、かつ前面を丸め、後縁を薄くのばし翼型に近づけます。それが不可能であるのなら、流れの速度の遅い胴体にぴったり沿わせるように配置します。

*取り付け角について
 最も大きな空気抵抗の削減方法は、ブームに対する主翼と尾翼の角度関係-取り付け角を見直すことです。取り付け角は、ゆっくりとした飛行時の特性にはほとんど影響を及ぼしません。それはトリムを与えることで小さなファクターとなります。
 打ち上げ時には非常に大きく効きます。打ち上げ時にほぼまっすぐ飛ぶようなトリムを与えたとき、ブームやポッドを含んだ抗力が最小に・・・つまりは空気抵抗が最小に・・・なるように取り付け角をセットします。これは、前縁投影面積が最小という条件とは一致しないことに注意を払う必要があります。HLG用の多くの翼型では、-0.5度付近の迎角で打ち上げ時に必要な浮力に対し抗力が最小になります。
 通常飛行時にも取り付け角は意味を持つことは持ちますが、前述の通りトリムで解決できます。繰り返しますが空気抵抗は速度の自乗で効きますので、低速時よりは高速時のセットにより注意を払うべきです。ごくおおざっぱには、HLGで使用される翼型のほとんどでは、取り付け角はゼロ-ゼロ-(ブームに対して)が一番抗力が少なくなります。