2009年2月22日日曜日

つがえた矢

 本日の午前中は日本中いい天気でしたが、午後になるとやはり日本中強風だったようで、風アメダスの足が長い絵が印象的でした。春は荒れます。僕がまだ若い頃、ハンググライダーに搭乗しある山を越えようとしていると、急に毎秒10メートルのリフトに入りました。毎秒10メートル、これは異常な数値です。特上の上昇風でも、5m毎秒がいいところです。万歳とばかりに上昇を始めましたが、どうも熱上昇風とは様子が違います。風に凶悪な表情がある。待てよ、と身構えた瞬間、今度は10メートル毎秒の下降風に突入しました。石のように落ちてゆきます。舵は全く効きません。…恐怖の数分間でした。春は各所に微小な前線ができます。時に大きな旅客機でさえ、この微小前線に捕まるとたたき落とされることがあります。

 どんなに荒れた風の中でもHLG競技は行われます。明確で扱いやすい熱上昇風がなく、洗濯機の中のような荒れた春の突風では、打ち上げ高度もそれほどのアドバンテージにはなりません。というのは、このようなコンディションの場合、上空高いほど荒れており、様々な角度から風が襲ってくるので迎え角の維持も困難で、簡単に高度をロスしやすいからです。低空の方が風速は小さく、姿勢の維持も容易です。となれば、ウエーブを探し、低空で粘っている方が勝ってしまうケースも考えられます。
 ただ、日本では公式競技はあまり春には行われないので、レアケースであるとは言えましょう。やっぱり、打ち上げ高度は第一義に重要なのです。

 高い打ち上げに関しては、既に何度か述べていますが、本稿では一番注意すべき所はどこかを考えてみます。弓道を思い起こしてください。矢を弓につがえ、射ます。戦闘では矢をつがえる動作も素早い必要があるでしょうが、狙いを定めて遠方の標的を射るのであれば、つがえる動作はゆっくりです。あまり焦っては動作が荒くなります。荒くなる、ということを判りやすく言うと、一つ一つの動作に集中できていないために最適な動きができていない、とも表現できます。矢を射るのは一瞬です。矢を射る直前までの動作は、速度の速い矢を放つのに必要な動作ではありますが、素早く行う必要はありません。無駄に速ければ、動作の要素が粗末になり、結果、矢の射出速度も遅くなることでしょう。
 HLGの打ち上げにも同じ事が言えましょう。大事なのは最後の動作、つまりは最終時点での両足の位置、腰のひねり、腕ののばし具合なのですが、その「かたち」に入るまでの動作はゆっくりで良い、ということです。最良のかたちを作り上げるためにその前の動作があります。ゆっくりと、丁寧に、自分を観察しながら行ってみましょう。最適なかたちが出来上げれば、射出の最終動作はパワフルで、素早いものに必然的になります。
 きっと、ゆっくりと投げ上げているのに、今までよりも高い高度に到達することに驚かれると思います。