2009年2月10日火曜日

打ち上げ高度至上主義

優れたグライダー、優れた競技者とはなんでしょうか。それを「勝てる」ものであると定義するなら、最優先されるべき特性は「打ち上げ高度が高いこと」に間違いありません。
  • いや、俺のグライダーは最小沈下率が小さいぞ。打ち上げ高度は取れないが。
 これは低高度からの滞空時間が長いことを意味します。低空の上昇風ほど不安定で掴みにくいことを考えれば、あまり良い状況とは言えません。同じ打ち上げ高度なら、競技者がRCカーのようにお立ち台に登って、少しでも高い空気から探索を始め、お立ち台の高さを切ったら着陸と見なす、ほうがまだましです。低高度の上昇風は気まぐれで、小さく、荒れており迎え角をガタガタゆさぶります。地面は迫り、競技者に心理的圧力を掛けます。

 打ち上げ高度50mの中で、最も熱上昇風を掴みやすい高度範囲、そんなのわかるわけないだろ。定量的じゃないね。・・・その通りですね。では、上昇風を掴むチャンスが50mの中に均一に分布しているとして、貴方が高度5m以下で上昇風を掴む確率と、高度50mから45mの中で掴む確率は同じでしょうか?どうです?地上5mの中には屈辱しか埋まっていないように思えます。

・・・むろん、そこから上げ直し、ライバルを打ちのめせば一躍ヒーローですが。

 打ち上げ高度は、高度の自乗倍の強度でチャンスが与えられることを思い起こすべきでしょう。多少他を犠牲にしてでも、打ち上げ高度が高い競技者と機体が、勝ちに恵まれるように思います。

 他競技者に与える心理的影響も無視できません。敵の機体の特性がわかっていない場合、先ず打ち上げ高度が低いだけで「まいったな」という気分になります。「打ち上げの途端、もう差がついちゃってるんじゃないか」
 日の下に新しいものなし。良く観察をすれば、同じ上昇風に入ったときの上昇率が良くない=最低沈下率が劣る、とか、足を伸ばしたときの沈下が大きい=L/Dが良くない、といった弱点が見えてくるはずであり、悲観するばかりでもないはずですが、競技中は脳の処理能力のほとんどが操舵に奪われるのでそこまで気が回りません。
 さらに悪いことに、打ち上げ高度の低い機体は、高度の高い機体のウインド・ダミー(風見)にされてしまいます。上を飛ぶものにとって、これほど楽なことはありません。他の低い機体は、全てサーマルセンサーなのですから。

 どうすれば高い打ち上げ高度が取れるのか、考えてみませんか。

揚げたら、走れ。

 首尾良く熱上昇風に乗って、トップアウト(上げ切ること)したら、勝ち誇ったように上空でうろうろしているなんて、未熟者の証です(私なのですが)。
 上げ切ったなら、次の投に備え、周囲の空気を読むために走るべきです。たった今上げ切ったサーマルが次の投にある保証はありません。シンクはどこか、上昇帯はどこに移動したか、そして投までの時間経過を加味し、投げた瞬間にどこに上昇帯が移動しているのか、、等の情報を走ることにより得ます。
 戦闘では、気を抜いたら負けです。全ての時間を勝つために使用します。

上昇風中の操舵

多くの競技者は、他の競技者をだしぬいて熱上昇風を捕まえたことに浮かれ、荒い舵を打ちがちです。競技で一番良い成績を収めたいのであれば、荒い舵は慎むべきです。操舵はロスであることを肝に銘じます。熱上昇風に入ってコアを捕まえたならば、対気速度の維持に注意を払います。これは、最小沈下の迎え角を維持することと等価です。SuperGee2の設計の場合、最小沈下速度は約17キロ毎時、その時の迎え角は約5.5度です。迎え角の微妙な変化を遠方から確認することは不可能ですので、速度で代用します。無論、バンク角が大きくなるとそれは更に早い方向に行きますので、大凡時速20キロを維持するように旋回を続けるのが良いところでしょうか。時速20キロとは、運動不足の中年の競技者が全力疾走するのとほぼ同じ速度、シティサイクルの叔母様が国道を走り抜ける速度とほぼ同じです。案外速いのです。ゆっくり飛ばせば最小沈下速度を外れ、さらに失速の危険性も増しますので良いことはありません。速めの速度で回すことで、よりよい順位を手に入れることができるでしょう。

サーマルコアのサーチ

機体はその機体の持つ最小沈下率(たとえばSuperGee2の設計通りであれば約0.28m/Sec)よりも、上昇風の持つ垂直成分が小さい場合、対地高度を獲得することはできません。まして、上昇風の中で愚かな競技者(私のことです)はバタバタと操舵をしますので、最良の迎え角(機体のブームに対して約5.5度、速度にして約17.0km/h)を保つことができません。結果、1m/Sec近くもある極上の上昇風でないと「乗り切れなかった!せこいサーマルだ!」などという未熟な台詞を吐く羽目になります。

ウデの未熟な私は、同じ上昇風であれば最も良く上昇できる場所を探さねばなりません。一般的には、1周のセンタリングの間に最も上昇率のよい角度、その方向にコアがあることが多いものです。次の1周で、さっき上昇率が良かった方向へのフライトパスを長く取ります。これを繰り返し、熱上昇風の中心を探します。

素早く揚げるとは

うまいこと上昇風を見つけたなら、ある見極めを行った後にそこになるべく長時間とどまる努力をします。見極めとは、その上昇風の種別。熱上昇風であれば、旋回(センタリング)を繰り返し高度獲得することができますが、それが気流の盛り上がり(ウエーブ)に過ぎないこともあります。またその両者が混じり合ったような上昇風の場合があります。
見分け方は簡単ではありませんが、以下、熱上昇風の可能性が高い場合の機体挙動を示します。

・機体の一部が蹴られたように上がる(もしくは下がる)
・飛行速度が速くなったように見える
・舵の効きが良い

対して、ウエーブの場合は上記の反対となります。

・機体全体が持ち上げられる
・飛行速度は変わらない、対地速度はむしろ遅くなる
・舵の効きに変化無し
・風が強い場合が多い

ウエーブの場合、ベンチュリー効果で気流の流れる速度が速くなっていますので、風に正対している場合、対地速度は遅くなったように見えます。
ウエーブの場合、センタリングを行うのは得策ではなく、多くの場合、キャンバーを下ろして凧のように漂うか、小さな8の字旋回を繰り返してその空域に留まるべきです。それでも、多くの場合は、機体の持つ最小沈下率(約0.3m/毎秒)よりもよいウエーブがあることは希で、粘っていてもじわりじわりと高度を落としてしまいます。熱上昇風混じりのウエーブが飛び込んでくるのを辛抱強く待ちます

見つけたのが首尾良く熱上昇風である場合、すぐに転舵しサーマルのコアのサーチに入ります。これは別稿にゆずります。

よりよい条件でのサーチ

高く上げてさっと走る。では走るときには何に注意を払ったらよいか考えます。
  1. 無駄なサーチをしない
  2. 上昇風のありそうな場所を探す
  3. 下降風を避ける
 無駄なサーチに関しては、OldBuzzadで述べられているので特に重ねませんが、たかだかL/Dが16前後のHLGについて言えば、ジグザグサーチは効率が悪いように思います。ターンを行っている時間中は、ほぼ同じ空域に留まってしまうわけで、ターンの半分を費やす時間はほぼ無駄に費やされてしまいます。ターン全体で約2秒を費やすとすると、時間にして約1秒、獲得高度で0.3mを無駄にしてしまいます。
 さらに悪いことに、操舵は速度を殺す操作になります。ターン後は加速のために更に高度を落とす必要があり、効率悪いことが解ります。
 HLGの場合、基本直線飛行、それも偏流60~30度程度をしながら風上に向かうのが効率がよいように思います。

 平らな地面の上をサーチし続けることは無駄が多いものです。熱上昇風の生い立ちを考えれば明白です。上空の空気よりも僅かに暖かな大気は、何らかのきっかけを以て上昇風に変化します。極めてゆっくりと、静かな環境で暖められた大気は、地面に長い間へばりついていることでしょう。それが剥がれて上昇風に変化するためには、地面の起伏、地面の表面特性の変化、木や建物などの遮蔽物などに衝突すること、が必要です。
  • トタンの屋根(最近はガルバリウム鋼板と言うそうです)
  • 競技者の乗ってきた自家用車(黒塗りならさらによい)
  • 小屋や建造物、土手などの突起
  • 冬の野原の枯れ草
  • 野原の中のアスファルト道路
  • 立木
 全く無風の時という条件は極めて希で、大体は風速1~6mの風が吹いている事と思います。地面にへばりついた熱空気は、風に押しやられながらユラユラと漂い、前記のきっかけを契機にして回りの熱空気を自身に引き寄せながら地面から剥がれ、風に乗って流れながら熱上昇風に変化してゆきます。
 熱上昇風のこの様な生い立ちを考えれば、前記変化のある場所の若干風下側の上空をサーチするのが最も理に適っていることが解ります。

 下降風は、前記上昇風のことが頭に入っていれば、逆の操舵をすることにより避けられる確率が高まります。熱上昇風が上昇するのと同じ体積の下降風が、上昇風の周囲に生じます。恐らく・・・ですが、その分布は、風に対して熱上昇風の前方に多く、また後方に多いケースが多いように思います。無論、地形的要素を無視はできません。小さな池のそばに熱上昇風が生じたとき、下降風は高い確率で池の上から生じることでしょう。暖まりにくい、もしくはしめった場所の上を飛ぶことを先ずは避け、下降風に入ったら迅速に操舵を行いフライトパスを転換することで、先ずは下降風を避け、さらには上昇風に入る確率を高めます。フライトパスの転換角度ですが、60度から120度の間が良いように思います。