2010年1月24日日曜日

速度を殺さないために

 毎年、12月中旬から1月いっぱいまでは、この日本の国では冬型が安定し、晴れた日にはHLGを投げるのによい日和が多くなります。狙い目は天気図を睨んでいればわかります。西高東低の気圧配置が強力なときは駄目、西にある高気圧が移動性となり、日本列島の西側にまで流れ出したころから、その高気圧がほぼ日本上空の自分がいる緯度に移動するまで…が頃合いです。

 風の吹き方は列島にかかる等圧線の本数でもわかります。おおよそですが、海風がない朝晩では、等圧線の本数*1m毎秒の風が吹くと考えてよいでしょう。高気圧が自分より東に行ってしまうと、北東の冷たくしめった風が吹き込み、太平洋岸では曇った寒い日になってしまいます。



 さて、コンディションの良い日は、飛ばし方の実験に最適です。初夏から夏のぼうっとした熱上昇風と違い、冬のそれは明確かつしっかりしたリフトをもたらしてくれます。(その分、下降風も強烈ですが)1回の打ち上げで何回もの飛行実験がでます。若いころに身体を壊し非力な私でも、優しいリフトが機体を上空へ運んでくれるからです。

 さて、熱上昇風に乗ったとします。このとき、どのような旋回をするのが理想的でしょうか。

 力学は、旋回を行うためには遠心力に釣り合う向心力が必要なことを示しています。バンクを強くしてアップをひき、揚力を向心力に使うのか、それともラダーを強く操舵して、ヨー方向の揚力を使うのがよいのか、ここでは深入りはしません。(主翼の投影側面積とラダーの面積は、主翼の面積よりもほとんどの場合小さいことは、エルロンによるバンクが優位なことを示していそうに思えますが、複雑で刻々と変化する気流の中では、そのような議論にそれほど意味はないように思えます…上手に回した方が、上に行くと言うことです)

 リフトの種類により、旋回のやり方を変えるべきだという意見に反対する人は少ないと思います。スティックサーマルと呼ばれる、小さいが強力な熱上昇風の中では、バンクをかけてキリキリと回す方がたいがいの場合よい結果が得られますし、ぼわっとした不明瞭な熱上昇風では、下から見た主翼の面積を減らすような高バンク旋回は、罵声を浴びるねたにしかなりません。

 もっとよいテクニックを持った方もいてはります。エルロンとラダーを同時に反対方向に打ち、機体をほぼ水平にしたまま旋回をするテクニックです。カーソルに回す旋回とも呼ばれることがありますが、このような飛ばし方がベストなのでしょうか。確かに垂直方向から見た主翼面積は減りませんし、旋回も小さくできます。

 残念ながら、この飛ばし方は曲芸飛行というエネルギーを まき散らすような飛ばし方には合うものの、神経質な自然を相手にしたサークリングにはあまり好ましいとは思えません。というのも、この飛ばし方はサイドスリップという曲芸飛行での舵の打ち方と同じなのです。サイドスリップは、曲芸機では、急激にブレーキをかけるとき等に使う操舵です。

 このとき、ラダー操舵によるロール方向のモーメントを、エルロン操舵により打ち消しています。垂直尾翼と主翼で同時に揚力を発生させています。揚力には抗力がつきまとうことを忘れてはなりません。また、斜行する胴体も大きな抗力を生みます。

 グライダーでも、これはまさにブレーキをかけていることに他ならないのです。大事な大事な空気の流れが、旋回だけのために浪費されます。曲芸飛行のように、ばかげて大きく高価な電池からいくらでもエネルギーを使えるのであれば別ですが、繊細な滑空機で行うのは無駄が多すぎます。結果、主翼に流れる空気は速度を失い、綺麗にサークリングしているように見えても、キリキリと回しながら上がるライバル機の上昇に取り残されてしまいます。

 いかなる時も、速度を失わないことを第一義に考えて旋回してください。 切り立った竜巻のような熱上昇風の中では、ほとんど90度にまでバンクした状態でも、上に上がれるのです。

  主翼に流れる空気が、ブーム方向に平行に、きれいに流れるように気をつけて旋回してください。調和旋回という状態です。適切に設定された上半角を持つ機体であれば、それほど多くの修正舵を打たずとも、ある程度きれいな旋回ができるはずです。エルロンはバンク角の調整でわずか打つのみ、旋回はラダーを主とした飛行を行うのが良いように思います。ラダーも打ちすぎは抗力が大きくなりがちですから、できるだけ機体が勝手に旋回するのに任せ、大舵を打たないように留意してください。